雇用契約とみなされる請負契約について
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労働者と雇用契約の定義
「労働者」とは、「その名称に関わらず雇用者に労働を提供する対価として賃金を受領することに合意した者」と同法5条(2)に規定されています。
「雇用契約」とは、「書面、口頭を問わず、また明示的、黙示的な了解により、被雇用者である個人が雇用主である個人に対して労働を提供することに同意し、雇用主はその対価として労働提供期間に対する賃金を支払うことに同意する契約」と同法5条(6)に規定されています。よって、「雇用契約」は賃金の対価として、労働を提供することを約束する契約と言えます。
労働者保護法の対象者である「労働者」とは、「雇用契約」に基づいて雇用主に労働を提供して賃金を受領する者であると言えます。
委任契約や請負契約の定義
「雇用契約」に類似するような契約形態として「委任(代理)契約」および「請負契約」があります。前述のとおり労働者保護法の対象は「雇用契約」のみであるため、法律行為などを弁護士や税理士などに依頼するような「委任契約」や建設工事を施工業者へ依頼するような「請負契約」は労働者保護法の対象ではありません。
「委任契約」は民商法に規定されていませんが、一般的に「委任契約」は報酬の対価として、特定期間に特定の仕事を実行することを約束する契約である点が「雇用契約」とは異なっています。
「請負契約」とは、「請負者が、依頼者のために特定の作業を実行することに同意し、依頼者はその完成に対して請負者に報酬を支払うことを同意する契約」と民商法587条に規定されています。よって、「請負契約」は報酬の対価として、特定の作業を完成させることを約束する契約である点が「雇用契約」とは異なっています。
委任契約や請負契約が雇用契約とみなされた場合
前述のとおり「委任契約」や「請負契約」に基づく会社とサービス提供者との間の契約については労働者保護法の適用はありません。しかし、「委任契約」や「請負契約」における会社とサービス提供者の実態から「雇用契約」とみなされる場合があることに注意が必要です。
それは、会社とサービス提供者との間の契約形態は「請負契約」となっている場合でもその実態が「雇用契約」とみなされてしまう場合には、サービス提供者は「労働者」として労働者保護法の適用を受けることになります。つまり、会社側の事情により当該サービス提供者との「請負契約」を終了させようとする行為は、「雇用契約」における会社都合の解雇とみなされるため、労働者保護法によって求められる解雇事由、解雇の事前通知、解雇補償金の支払が必要になってくるということになります。さらに、当該サービス提供者の勤務実態について時間外労働、休日労働、休日時間外労働があると判断された場合には時間外/休日労働手当(残業手当)の支払が必要になってくることになります。
雇用契約か請負契約かの判断
ここで「雇用契約」か「請負契約」かの判断について基準の有無が気になりますが、労働者保護法や民商法におけるそれぞれの定義を見るに、報酬の対価として、“労働を提供すること”を約束しているのか、“特定の作業を完成させること”を約束しているのか、の違いであるとことが分かります。ただし、それぞれの法律には具体的な判断基準が規定されているわけではないので、過去の判例や事例などから推察するしかありませんが、概ね以下の要素を総合的に考慮していると考えられます。
・報酬が労働時間を基礎としているか否か
・業務時間の有無や業務時間管理の有無
・業務場所が指定されているか否か
・業務を独立して遂行するか、会社の指示命令のもとで遂行するか
・業務を独立して遂行する能力や資産を有しているか
・会社の就業規則や会社規定への準拠が求められているか